多彩に変化するソロピアノと
変化の肯定を表すエモーショナルコード
言葉では表せない、感情の姿
作曲家、ピアニスト、稀代のエンターテイナーとして世界中から人気を集めるチリー・ゴンザレス。そんな彼の名を世界的に広めることとなった、心の奥深くに触れるようなピアノのタッチが印象的な『Solo Piano』(2004年)と『Solo Piano II』(2012年)に続くシリーズ完結作が、今回紹介する『Solo Piano III』(2018年)です。
「過去作品と同様に、多くの曲がハ長調でハッピー・エンディングになっている。だが、不協和音や非和声音が増え、曖昧さを持たせている……」とゴンザレス自身が語った本作は、ミステリアスな和音や意図的に「間違った」構成による「曖昧さ」を持って、言葉では表せない、複雑な感情の姿を見事に表現しています。
また、収録曲の全てがゴンザレスの出会ったミュージシャンをはじめとする「誰か」に捧げられているのも特徴です。ミーゴスや今年2月に解散を表明したダフト・パンクのトーマ・ バンガルテルといった現代のミュージシャンや、ファニー・メンデルスゾーン(19世紀前半のドイツのピアニスト。女性作曲家のパイオニア)やヒルデガルト・フォン・ビンゲン(中世ドイツのベネディクト会系女子修道院長、作曲家)といった男性中心の社会構造の中で活動した女性音楽家等へのトリビュートが行われています。これはゴンザレスが現在そして過去の音楽家と「出会う」ことで紡ぎ出された「新しい音色」と言えるかもしれません。多くの曲がハッピー・エンディングであると同時に、ただ美しいだけではなく、複雑に変化するその音楽性は、移りゆく感情とリンクします。
『Solo Piano III』
アーティスト:Chilly Gonzales
品番: BRC-577